延享二年(一七四五年)、加賀藩の第五代藩主・前田吉徳が亡くなり、藩主の看病をしていた大槻伝蔵を巡って、以前から燻っていた内粉が火を噴いた。世に言う加賀騒動の幕開けである。
事件は、大槻伝蔵と吉徳側室の真如院との密通、藩主吉徳の殺害、密通の証拠となる手紙、もう一人の側室の浅尾が、第八代藩主・前田重煕の毒殺未遂に協力したことなどが暴かれることにより、大槻伝蔵の流刑とその後の自殺。真如院と浅尾はそれぞれ幽閉の後、殺害という結末に至る。
スキャンダラスな内容は大変話題となり、後に小説として流布されたが、実際にはそれらの証拠が見つかっていないなど不自然な点が多い。
現在、多くの文献が研究され、巷説の加賀騒動は面白おかしく作られた虚構であり、真相は、大槻派を一掃しようとした前田土佐守直躬ら保守派の陰謀だったという説が有力視されている。
本書は、さまざまな人物の思惑が入り乱れる、加賀百万石のなかで、もしコーチングが導入されていれば、加賀騒動はどう変わっていたかをシミュレートした時代小説である。