アメリカでも、ヨーロッパでも、東南アジアでも感じられなかった、人種の垣根を越えた安堵感と居心地のよさ……。そんなものを、朧げながらも掴みかけた中で眺めるイスラム社会は、深い歴史と信仰にかける情熱に誇りを抱く人々が多く、心底活力があった。迷いやブレのない社会、そんな世界にどこか羨ましささえ感じ、心酔していく自分に抗(あらが)いきれない感覚を味わったのである。

 しかしながら、ひとたび帰国をしてみれば、”旅の空の下”と、”ニュースの中”のイスラム社会には、大きなギャップが存在した。
 私の感覚がおかしいのだろうか? それとも、メディアが本当のことを伝えていないのだろうか? この煩悶は、曲がりなりにも写真という視覚表現を専門に学んできた私に、見過ごすことのできない違和感として心に残った。そして、この違和感の払拭には、もはや自らの眼をもって見てこなければならないし、そうしなければ決して本当のことなど分かるまい! という熱き思いに取って代わっていくのである。(「はじめに」より)
 
【目次】
はじめに
第1章 べカー高原に眠る、古代都市レバノン
第2章 大いなる幻影、シリア
第3章 ナパテアの叡知、ヨルダン
第4章 イスラム前史に魅せられて
第5章 写真展「遥かなる中東の風」
第6章 フェニキア探訪の旅、マルタ・チュニジア
第7章 「ならず者」の国、リビア
第8章 三度、レバノンへ
第9章 知らなかったトルコ
第10章 パキスタンの想い出復興に寄せて

なお、本書は、2006年6月15日、文芸社より発売された『遥かなる中東の風』を電子書籍化したものです。