葛飾応為は葛飾北斎の娘で絵師である。
 そして美人画では父親を凌ぐ技量を持っていたとされ、さらに八十歳を過ぎてからの北斎の作品は、殆どあるいは全てが彼女の手によるものだとの説もある。

 江戸時代は男性社会である。
 父親が著名人であっても、多くの男性浮世絵師との競争の中で、女性の応為が如何にして美しい浮世絵を描き歴史に名を残す生き方が出来たのか。
 本名をお栄といった応為が、父、母、愛人らとどのように生き、女性でありながら自立した絵師として認められていったのか。
 幕末から明治には多くの女性が自立し各界で活躍したが、何故彼女がそうした自立した女性の先駆者になり得たのか、彼女の生涯を辿ってみたい。

 本書は彼女自身が初歩的なセルフコーチングを行ったのではないかと空想してみた。
 自らの心に自らが問い掛け、自ら解を見つけるという作業である。
 その作業の終わりには、相棒と言える人物に自らの会話の内容と結論を聞いて貰う段階が必要かと思う。
 彼女の場合、その相棒も浮世絵師としてみた。

 応為の生涯に入る前に、浮世絵に馴染みの無い方のために、華やかであったが混乱の時代でもあった当時の江戸の状況や浮世絵について、若干の知識や情報を第一章に述べておきたいと思う。
(まえがきより)

著者プロフィール
神戸 博(かんべ・ひろし)
1949年横浜市に生まれる。同志社大学工学部卒。
NEC日本電気入社、25年間に亘り無線通信システムの海外ビジネスに従事。その後日本エリクソン(現エリクソン・ジャパン)に転職、14年間勤務。在職中にコーチングを学び始め、(一財)生涯学習開発財団の認定コーチ資格を取得、社内コーチを始める。退職後の2009年、個人事業として「コーチHK」を起業。企業向けコーチング及び研修活動を実施中。一方、戦国及び江戸時代には若い頃より深い興味を持ち、多くの歴史小説を読破。2012年、名古屋市内に転居、執筆活動を始める。