私が歴史や歴史上の人物に興味を持つようになったのは少年時代からの読書によるものであると思う。母方の叔父が呉れた世界名作全集や講談社等の歴史物語を読み耽ったのが始まりと言えよう。当時はプロ野球と大相撲と映画以外にこれと言った娯楽は無く、私はそのいずれにも人並以上にのめり込んでいたが、伝記小説や歴史物語には特に熱中したもので洋の東西を問わず歴史上の人物に強い興味を持つようになった。中でも平家物語・義経記・太平記・太閤記・史記・十八史略・漢楚軍談・三国志演義・水滸伝・プルターク英雄伝・イーリアス等は愛読書であり、特に悲運の英雄へ傾斜しがちな後年の私の性格形成に多大なる影響を与えたものと思う。
 本編は前作『男ありて…戦国武人列伝』の続編である。前作では漏れた武将(部将)六十余名を選びその小伝を書いたものである。知る人ぞ知ると言った人物を取り上げることに主眼を置かせて頂いた。平素は日の当ることの少ない人物を積極的に取り上げるように努力をしたつもりであるが、その人物を活写し彷彿とさせるだけの資料がなかなか見つけられないため、人物によって紙面の量にかなりの差が出たことは否めない。又、色々と調べて見ると、出自、経歴、事績で種々の説がありなかなかに事実関係が特定出来なかったり、その人物を賛美する余り、後世の史家や民衆により逸話が捏造された部分が多いのには改めて驚かされた。ここでは、通説や定説のみならず巷説や俗説で取り上げられた逸話も少なからず取り上げているので、それなりに面白い読み物になっているとは思うが、反面、一級資料に当り、事実の裏付けを検証して歴史の真実に迫るという考証を基礎とした学術的研究とは全く異なることを予めご容赦頂きたくお願い申し上げる次第である。
 戦国の先達はその意味ではそれぞれに誠に個性豊かであるし、油断も隙もない時代を己の志、夢、信念というものを持ち懸命に生き抜いただけに、学ぶべきものが多いのではなかろうかと愚考する次第である。最近の教育は早い時期から専門教育に入り、いわゆる一般教養過程が軽視されがちであるため、人間修養的な面でのバランスが欠落する惧れなしとしない傾向があると指摘されている。その意味では歴史というのは実に優れた尽きせぬ教材の宝庫ではないかと思う。過ぎたことは終ってしまったことだからどうでもよく学ぶべきものは何も無いということは全くないと確信するものである。
 本書により、巷間言われるところの若い人々の歴史離れにいささかなりとも歯止めが掛かり多くの人が歴史上の人物に興味を持ち、それらの人物の生き方から、何がしか感銘を受けるとか、反面教師でも良いから何か自分が生きて行く上で役に立つものを引き出せて頂けたらこれに過ぎる喜びはないと思っている。
(「始めに」より)

【著者プロフィール】
 竹村紘一(たけむらこういち)
 昭和十九年生 高知県出身、東京大学法学部卒。
 歴史作家、歴史研究家、歴史愛好家。
生来の歴史好きで^60^年近く歴史に親しみ明け暮れしていたが、保険会社退職後は本格的にこの世界に入る。
 洋の東西を問わず歴史上の人物や事件に強い興味を有するが、特に中国古代や本邦の大和、奈良、平安、鎌倉、南北朝、戦国、幕末の動乱の時代を生き抜いた人物の壮絶な生きざまに深い共感と感動を覚える。
 著書に『士魂よ永遠に…私撰武家百人一首』、『男ありて…戦国武人列伝』、『気になる戦国の男たち…続・戦国武人列伝』、『坂東武者』、『読史放談…戦国夜話』、『幕末風雲録』、『戦国女性流転絵巻』、『戦国越後の武将列伝』、『土佐の名門香宗我部氏と長宗我部氏の興亡録』、『楚漢群雄伝…項羽と劉邦を巡る人々』、『正史三国志将星伝』、『静寛院宮様御一代記』がある。
 全国歴史研究会本部運営委員、古代史懇話会会長、横浜歴史研究会副会長、神奈川歴史研究会理事、全国邪馬台国連合協議会理事・史友会特別顧問。